泉由良『代々の遺伝子』

 午前一時の夕焼けに向かって彼女は指を組みいっしんに祈った。さようならおひさま。さようならいちにち。さようならみんなみんな。さようならせかい。

 眠っていると夢が正夢になりそうだったので慌てて起き上がり、小箱を開けて夢を閉じ込め蓋をぱたんと閉める。それだけでは足りないと思い頑丈な鍵を掛ける。どうか出てこないで。出てこないで。蓋をじっと押さえ、なかで夢が風化してかさりと毀れるのを確かめると、ほぅと吐息。よかった。これで大丈夫。

 彼女は時計というものを知らずに育った。算術なら出来る。しちくろくじゅうさん。

 迷図というジグソゥパズルの続きに取りかかる。MAZE、迷図、メイズ。全部で何ピースかわからないところが、このジグソゥパズルの難所なのだ。迷走しながら一ピース、一ピース、組み合わせてゆく。三次元ジグソゥなので、高さがある。もうすぐ彼女の背を越えるだろう。そうなったら脚立を持ってきて、昇り降りしながら組み合わせるのだ。

 彼女は三次元ジグソゥのなかで育った。そして、そのなかに棲みながら隙間から押し込まれてくる新しいピースを組んで、三次元ジグソゥを作っている。彼女の心臓が内部から彼女を喰い尽くしたとき、新しい女が彼女の作った三次元ジグソゥのなかで芽吹くだろう。

 代々の夢を閉じ込めた箱が、代々の女の手元に受け継がれてゆく。正夢になりそうになったら、すぐにこのなかに仕舞いなさい。鍵を掛けなさい。代々の女の遺伝子に、その教えは伝わっている。夕焼けにはいっしんに祈りなさい。正夢になりそうな夢は閉じ込めなさい。ジグソゥパズルを組み立てなさい。

 

  了