白取よしひと「まふゆのダリア」(散文)

- 巡礼

 

 彼方へ白くのびる回廊を胸に抱えきれぬほどの鉛を抱いて歩む。行き交う人々は罪を感じ、幾度となく歩んだ筈のこの路に五体を捧ぐ想いを抱くけれど、気持ちの整理のつかぬままこの門に至るのだ。

 悲しいほど素っ気のないアルコールが辺りに漂う。これは小さくそして幼くなったあなたに触れる唯一の禊ぎなのか。

 

- 洗礼

 

 ここで人はよく顔を洗う。惜しげも無く解放されて、迸る冷水に顔を埋めると轟々と響く水音にこみ上げる嗚咽を忍ばせる。隣人は優しくその者の肩を摩る。まるであなたの洗礼は終わったのよと告げる様に。お互い抱き合いその喜びに浸っているのか。笑顔を取り戻し受洗者は自らの部屋に戻るのだ。

 

- 夢

 

 その小さな手でこんなにも強く私の袖を掴む。わたしはどこにも行きはしないよ。いつだってこんな風に絵本を読んであげる。絵本は青い宇宙だね。たくさんの漂う魚たちを見てあなたの夢は果てしなくひろがるのかい。

「暖かくなったら海に行こうね」

 綻ぶあなたの笑顔はただそれだけを望む。小さく儚いその望みは波に紛れて流れてしまったのか。

 

- 審判

 

 裁きの言葉は冷たく短い。その言葉に天を呪う。揺れながらも耐えるこの灯火は誰の言葉でも裁けはしない。寄り添う私の前にあなたはいる。あなたはいるだけで私は救われるのだ。置き去りにしないで欲しい。

 

- まふゆのダリア

 

 ほら雪が見えるかい。もうすぐクリスマスだね。あなたの願いは私そのもの。どんな事でも願って良いのだよ。モルヒネで霞むその目に雪は見えているのかい。荒い息をさせながらも窓辺を見てくれているね。

「ダリア」

 耳を疑う私に幼いあなたはダリアを飾りたいと確かに言った。雪降る季節に真夏のダリア。あの時の私の残像は必死で見つけたダリアを抱いて今も電車を乗り継いでいるのだろうか。

 

 夜来の雪が日差しを返し明るく部屋を満たす中、あなたはその光に導かれる様に旅立とうとしている。慌ただしくあなたを囲んでいた審判者達はその役目を終えて姿を消した。失われていくぬくもりにわたしは縋り、どんなにあなたを呼んだことか。

  あなたを苦しめた呼吸の嵐は穏やかになり、私を気遣う様に笑みを残してあなたは逝ってしまった。窓辺に未だ枯れぬダリアを残して。