(にごたん供養・追憶の果てに)

「………………」

 男が物思いに耽っている。愛している女性、かつて愛してくれた女性が、今は何をしているのかと、考えていた。

 想像の中の彼女は、輝いていた。とても輝いている。改めて思い出すと、とても嫌な思い出ばかりが浮かぶ。もちろんのこと、喜ばしい思い出だってあるのだが。

 それらは、既に記憶の遥か彼方にあり、写像のような、輝かしさばかりが先立っていた。

 考え事をしている男は、ベランダで煙草を吸っている。夕焼けが眩しい。思い出が眩しい。先に進むことが出来ない。

 写像を浮かばせている脳は、もしかしたら、まるで「身に着けるだけで見える世界を丸ごと変えてしまうメガネ」が現実なのではないか、と思っているかのようだった。思いたかったのだった。

 男は、携帯電話がバイブしているのに気づいていない。この十数分後、男は「復縁」することができるのだが、その後の事は読者に想像に任せたい。

(了)