さとりのしょ!!「続・読んでから食べた」

これは、とある二人の幸せな夢物語である。 とあるところに、クロミという女性がいた。クロミは、シロスケという男性と会う約束をしていた。 待ち合わせから十分経ち、ようやく表れたクロミの前には、以前とは違った姿のシロスケがいた。少し太ったようで、柔和な顔つきになっていた。 しかし、確認するまでもなく、シロスケであることは瞬時にして分かった。思い出すことができた。 クロミには旦那がいる。しかし、これは浮気ではない。クロミの旦那には、「シロスケという男性に、一度だけあってくる」と告げてあるのだ。もちろん、クロミの旦那から許可をもらっている。 「久しぶり」 「お前、また泣いてんじゃん。変わんねーのな」 言葉遣いも、すぐに格好をつけようとするところも、何もかもがあの時のままだった。クロミは、それを確かめるようにして、やはり泣いたのだった。 暫く通行人を無視しながらシロスケがクロミの隣で、クロミをあやしていた。シロスケは、クロミがどうすれば泣き止むかを知っている。 ただただ、黙って頭を撫で続けることだ。安心させてやることだ。存在を、感じさせることだ。 少ししてから、二人は歩き出した。思い出の場所を巡ろうと、そう約束していたのだ。最初は、学校からだった。 「よく、ここでお弁当食べたよね」 「食べたな。お前の卵焼き、ウマかったぞ」 「今日ね、それ作ってきたんだ」 「ほっほー、それは楽しみだわ」 やはり、シロスケはにかにかと笑った。つられてクロミも笑う。学校は、随分と変わってしまったが、とても落ち着くという、その一点だけは変わらなかった。 その次に、二人はよく一緒に遊んだ広場を歩いた。よく、ここでクロミはいじめられていた。それを助けていたのが、シロスケである。 「今でも泣き虫なんだよな、クロミ」 「旦那が慰めてくれるもーん」 「ははは、強くなったな。良い顔だ」 少し、クロミの顔が曇ってしまった。シロスケは、やはり黙ってしまった。言うべきではなかった単語を探っているうちに、昼時になった。 広場で弁当を広げる。五月の良い風が吹いていて、五月晴れだった。この調子では、雨は降りそうにない。 「やっぱクロミの卵焼きゼッピンだわ。うめえ」 「毎日、作ってるからね」 「そいつぁ、幸せな旦那だなっ」 「うん……だと、いいんだけど」 シロスケが、呆れたような。困ったような顔をした。眉をハの字にして、クロミの頭を撫でた。ぽんぽん、と軽く叩いてやると、クロミは照れて笑うのだった。 その次に、二人は「思い出の場所」を歩いた。クロミの顔がどんどんと曇っていく。梅雨空のようだった。 その上り坂で、シロスケはクロミに告白をしたことがあった。だが、クロミは答えることができなかったのだ。クロミは、そのことを思い出している。それは、シロスケにも分かった。 二人は黙り込み、立ち止まってしまった。クロミは、既に涙目になっていた。突き抜けるような青空、一点の曇りのない空の下、シロスケは、夏の空を思わせる笑顔で、叫んだ。 「俺は、お前が好きだぜっ。だから、これからも達者でなッ?」 「え……えへへ……泣いちゃ、だめ、なのに……」 「オラッ、元気出せよ!」 シロスケが、クロミの背中を叩いた。坂道を登り切らせようと、背中を押した。二人は、上り坂を歩ききることができたのだった。 二人は、夕暮れまでカラオケで遊んだ。素晴らしい一日だった。そして、別れ際。 「シロスケくん。その、じつは」 「禁止。分かってるし。ま、達者で、ってことで!」 シロスケの笑顔は、やはり真夏の太陽を思わせる、眩しいものだった。 これは、新しい二人の「対の足跡」の物語である。 (了)