さとりのしょ!!「支えあう pt.1」

「支えあう Pt.1」     きらきらと光る指輪が左手の薬指にはめられている。タカシは結婚などしていないが、なんとなくその指輪は薬指にしかはめられなかった。少しサイズの大きいそれは、寧ろ左手の中指に丁度良かった。だが、どうしてもタカシは薬指にその指輪をつけていた。   「タカシくん、また縁起悪そうな指輪つけてるねっ」 「お前、会う度にそれ言うよな。どうかしてる」 「気色悪いんだもんっ」   棺桶をモチーフにした十字架の指輪だ。ぼこぼこに曲がっていて使い古されている雰囲気が十分に出ている。ずいぶんと長い間その指輪を付けていたのだろう。   「で、ユミコ。ユウジとのアレだよな。夕食」 「そうそう、どこがいいかなあって」 「いつもの喫茶店じゃだめってことは、そういうことだと思っていいんだな?」 「………………」   ユミコと呼ばれた女性は下を向いて照れている。照れているように見えた。タカシはぼんやりとユミコを見ていたのだが、沈黙に耐え切れずにコーヒーをおかわりした。   「俺らも来年には大学だ、一緒の大学行くんだろ、一緒に暮らせるんだから……その、なんだ……勇気出して告白しろよな。けじめだろ」 「うん……でもやっぱ恥ずかしい」 「のろけは同棲した後で十分聞く。まずは……サイゼじゃだめだろうな……どこがいいだろう」   高校生であり、金銭面で大きく出ることはできない。だが、それなりに雰囲気のある場所で告白をしたい。そんな贅沢な悩みを解決できる場所は一つしかない。だが「そこ」で告白するには問題があった。   「幽霊喫茶でしょ……ヤだよ、あそこは」 「とはいえ、ハルモニアは良い場所だぞ。落ち着けるし」 「告白すると絶対別れることになる喫茶店でコクハクなんてできないよォ……あたしだってオトメだしこの気持ちは本物だと思うのに」 「ジンクスなんて気にするなよな」   しばらくタカシとユミコは言い合っていた。良い意味で言い合っていた。こうした日々が中学生の頃から続いていた。ずっと、ずっと。ユウジと出会ったのは高校に入ってからだった。ユミコはすぐにユウジの魅力に気が付いたのか、タカシとユミコの仲にユウジを引き入れた。   ユウジはタカシから見てもいい趣味をしている。ユウジはスポーツも勉強もタカシよりもできるし、男から見ても申し分ないステータスだった。そして、その認識は高校生活を長く共にすることで強く思うことができた。   「俺も一緒に行った方がいいか?」 「……は……?」 「冗談だって。お前なら上手くやれる」   タカシが微笑む。ユミコも笑っていた。気が付いた時、窓の外は星空だった。   タカシがユミコと並んで歩く。ユウジの事について話していたら随分と長い時間が経っていたようで、遅い時間になってしまっていた。   「タカシは、どうするの」 「卒業後か? この街で働く」 「……ん、そっか……うん……」   タカシが別れの挨拶をしようとしたとき、ユミコがタカシに平手を食らわせた。そのまま何も言わずに走り去っていってしまった。   (俺だってソレは分かってたけどさ……しょうがないだろ、そんなん)   タカシは、頬の痛みこそ、ユミコの痛みだと思い知った。出会いがあれば別れがある。それくらい分かっているつもりだった。   それから。タカシはユミコに宣言した通り、働き始めた。すぐに結婚をし、安定した生活を手に入れることができた。ユミコはユウジと大学に通っている。生きる目的が分からないそれぞれは、明確な幸せを手に入れようとしていた。   二つの目ではなく、六つの目が、きちんと開いたのだった。それぞれの幸せに向かって、両のまなこをしっかりと開くことができた、あの平手には感謝しなければならないのだ。     (了)